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4話 偽りのヒルガオ

Penulis: hoshくろ
last update Terakhir Diperbarui: 2025-12-04 20:42:21

休日もいつもの様に過ごしていた。

 起きたい時間に起き、特別やる事を決めてる訳も無く。

 気が向けば外出し、いつもの決まった川沿をコーヒー片手に歩き、友人と約束があれば朝までくだらない話で飲み明かし、いつもの平凡な平穏を謳歌する。

 特に予定も無くダラダラと過ごした。

 コンビニで買ったビールを流し込むも、中々寝付けない、少し夜が長い気がした。

 タバコを吸おうとベランダに出ると、今日だけは夜風が自分にだけ優しく感じた。

 昨日の人が少し頭をよぎり、少しだけまた会えないかな?と、こんな人間が思う、どうせ自分には変わる事が出来ないのに。

 なにも変わらないのに、もう失敗しないと誓ったのに、灰色の人生に少しずつ沢山の色で溢れて欲しいと願う。

 自分も人の事を信じても良いのかなと、自分を許せる時が来るのでは無いかと、同じものを楽しいと思っても良いのではないかと、少し期待した。

 過去は過去でしかないのに、それを言い訳にし、恐れてる自分に心底腹が立ちつつ、なにもする事は出来なかった。

『花凛の事を知りたい』それが答えだと分かってはいるのに。

 自分はできてると、失敗しないと、<優しい>を勘違いして人を傷つけてしまった事を、そんな事忘れるくらいに、普通でいられたのに。

 <優しい>が少しだけ人のためになる事を知れた、学生時代の記憶が蘇る。

 なんて事ない普通の高校生で、勉強も、部活も、恋愛もそこそこ、いつも変わらない何気ない毎日、友達との関係も可もなく不可もない。

 ありふれたいつもの毎日。

 今日も顔色を伺い適切な言葉を選び、適切な態度で、波風立たない普通の毎日。

 このまま、普通に過ごしていくと思っていたのに。

 その日は、一人で帰りたい気分だった。

 理由なんかは無く、ただそんな気分だった。

 あの時みんなで帰って居れば、話す事もなかったのに。

 プレイリストの中にある、色んな歌達の色んな歌詞に、どんな想いが裏にあるのかを考えながら歩き始めた。

 少しだけ人の心がわかる気がした。

 駅の階段を下り、ホームに同じ学校の制服の人がいた。

 田舎の小さなホーム、古びたベンチに腰掛け本を読んでる人と案の定目が合う。

 それと同時に笑顔で会釈され、手招きされ、めんどくさい感情を抑え、いつも通りの笑顔で会釈を返す。

 『どうも』

 どうせ聞こえやしないのも知っていた。

 女性にしては低くない背丈に、すらっとした肉付きで、印象的なポニーテール。

 ハキハキと喋り、賢そうな雰囲気を纏っている。

 人当たりよく笑顔が絶えず、性格も明るく、顔も整っていて、男女共に好かれてる一つ歳上の南だった。

 17歳の自分には、その一つは少しだけ大人っぽく見えた。

 面識がない訳じゃないが、顔見知り程度で、断る理由も特になく隣に座り電車を待つ事にした。

 

「今日は一人?いつも誰かと居るイメージだったんだけど、珍しく無い?」

『たまたま今日そんな気分だったんです、それに、南さんこそ一人で珍しく無いですか?いつも誰かと居ますよね?』

 いつもの様に当たり障りなく、相手の気分も害さず、丁寧に言葉を選び返事を返す。

 それにしては少し馴れ馴れし過ぎる気がしたし、オレの何を知ってて珍しいのかよくわからない。

「そうかな?よく一人で帰ってるんだけどなあ、

 こうやって誰かと会うと話しちゃうかもな」

『それって、いつも誰かといるって事なんじゃ無いんですか』

「えっ確かに笑 仁くんって面白いね」

『どう言う事ですか?』

 一体何がそんなに面白いの見当もつかないが、合わせて笑っておく。

「いやそのままの意味だけどさ」

『そんなに面白くないですよ、普通です』

「そうかな?」

『電車来ますよ?乗らないんですか?』

「乗らないわけないよ笑」

 その返事を返される事など分かっていた。

 他の学生もちらほらいる中、少しだけ周りの目がめんどくさくなって来た。

 よからぬ噂が立ち、当たり障りない生活に支障が出るのを恐れた。

「なんでそっち行こうとするの?普通横座るでしょ、本当に面白いね」

『あっいやっ、もういいかなって思ったので』

「いい訳ないじゃん笑」

 何が面白いか教えて欲しかった。

 降りるまでこのまま横にいて会話をしなければならない事を受け入れる。

 電車に揺られながらぼんやりしていると

「仁くんなんの歌聞いてるの?聞かせて?」

 そう言って片側だけ外してたイヤホンを当たり前かのようにつけ始めた。

 特別なんら感情も湧かなかった。

 一曲聴き終えイヤホンを外し

「何のうた?」

『UVERworldのTHE OVERです』

「いい歌だね...」

『まぁそうですね...』

 少し虚な表情の南に聞いてみる。

『嫌な事でもあったんですか?』

「あっいやそう言う訳じゃなくて...」

『すみません』

「なんだか少し疲れちゃってさ、ごめんね急に変なこと言って笑」

『変な事なんですか?笑』

「やっぱり変わってるね」

『そうですか?』

 何かあった事くらいはわかって居たが、詮索するつもりもなかったし、変な事など何も言っていないと思った。

 今度は変わってるね?少しの変化に鼓動が早くなる、嫌な予感は意外と当たる物だ。

 少しの沈黙を破り、南はまた話しだす。

「仁くんさ、誰が何て言っても何とも思わないし、興味もないでしょ?笑」

『えっ?、そんな事ないです』

「嘘」

『...』

 笑いもせず、冷たく言い放った。

 その時の表情は無理やり作った笑顔が今までに無いくらい醜かったはずだ。

「もう少し話せる時間ある?」

『次で降りますけど、時間はあります...』

 当たり前に要求を断れる事はなかった。

 電車を降りてホームのベンチに二人で腰掛ける。

 風は優しく、橙色の空で、雲だけは相変わらず自由にのんびりと動いてた。

「実はさ、仁くんと話して見たかったんだよねー、なんか仁くんって不思議な感じで、何となく似てるかなーなんて思ってて」

『似てるってなんですか?』

「仁くんって生きてる意味ある?」

『いや?特に考えた事ないですよ』

唐突な質問に驚いたが、落ち着きを取り戻し、普段通り微笑みながら返した。

「考えた事ないって言うか、興味ないんでしょ?」

『...』

「なにも言えないって事は当たり!?やっぱりなぁー、なんかいつもニコニコしたり、楽しそうにしてて、今日もさっきからこっちの表情に合わせて顔作ったり、笑ったりしてたよね?それにさっきの笑顔下手すぎ笑」

 やめて欲しい、こんなにも見透かされてる事が恥ずかしい。

 今まで通りうまく行くと思って居たのに、何処で失敗したのか分からなかった。

 それでも冷静になろうと言葉を選ばなければならなかった。

 感情は出したら良くない、そう言い聞かせた。

『いつからですか、何処でそう思ったんですか?』

「いつからって言われたらよくわからないけど、今まで学校で仁くん見てる時とか?さっきの反応で笑 違ったら私の勘違いだったで済むし笑」

『そうですか...自分では上手くできてたつもりです...一つだけ違うのは無理してる訳ではないです、もう無意識なんですよ多分、昔からこうするしか方法はなかったんで』

「うん、上手くやってると思う!多分誰も気がつないよ笑 誰にでもいつもの顔で相手が望んでるの察して<優しく>接してるでしょ?」

 もう嘘はつけなかった。

『そうですね...その方が誰も嫌な想いしないで済むんで』

「<優しい>よね本当に、誰も仁くんを疑ったりもしてないよきっと、私もそんな感じで周りと接してるからさ」

 苦しくてはち切れそうだ。

 なぜこうも南は楽しそうに話しているのかわからない。

 平凡な日常が崩れ落ちいくが、もうどうでも良くなった。

「無意識かぁ、私は無理してるかな、本当にみんな意味わかんない、誰かの恋愛話とかに相槌打ったり、それっぽい返事してるだけで、皆んな満足そうでさ?私が興味ないから当たり障りない返事してるだけなのに、そんなん考えたら全部どうでも良くなる」

『何となくわかります』

「でしょ?でも否定的な事言っちゃったら、周りは嫌な顔したり不貞腐れたりするんだよね、だから言わない様にしてる」

『確かに少しだけ似てますね、南さんも十分<優しい>ですよ』

「そんなんばっかりで、誰にもわかって貰えなくて、しんどくなって無性に死にたくなるんだよね」

『それも分かります、僕も何度も死ねたら良いなって思ってました』

「仁くんって相変わらず<優しい>ね、でもそれも嘘?」

『本当ですよ』

「なら一緒に死んでくれる?」

『...いいですよ』

「約束だよ」

『はい』

 知らぬまに答えていた。

 何言っても無意味だった、南の話に考えるよりも先に言葉が出てくる。

 ゴミ箱が溢れそうで、自分の感情を抑える事も難しくなっていった。

 これも<優しさ>なのか、これも昔みたいに自分を押し殺してからの発言だったのかわからなかった。

 南には自分と同じ思いをして欲しくなかった、無理せず助けが必要なら自分がそれになろうとした、まだ少し無理してるとわかってるなら直せる、無意識にそうなる事を止めたかった。 

 それと生に対しての執着がなかった。

 この人が望むなら、一緒なら良いとさえ思えた。

「やっぱり仁くんは、<優しい>んだね、こんな事言っても人何も思わないの?」

『<優しく>ないです、それに何とも思わないんじゃないです、少しだけその考えが理解できるからです』

「変なの笑 来週日曜空いてたら公園でもいかない?」

『良いですよ』

「なら昼過ぎに改札の前で」

『わかりました』

 南の表情は安らかだった。

 自分はどうだったろう、南に心の底を覗かれたが変われない自分と、何も考えず話せる南との心地よさの間で何とも言えない表情だっただろう。

 一つだけ確かなのは、南を救いたい気持ちが、あった。

 自分はできると、何も失敗していないと言う自惚れから、それがどう言う影響を与えられたのか

 本当か嘘か、少しだけ救えたのだろうか

 似て異なる二人の<優しさ>は

 ヒルガオの蔦の様に絡まり

 歪にも偽りながら成長していく。

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